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6 フィリピン

6.3 事業の効果と経済への貢献

6.1および6.2で述べているように、フィリピンに対するアジア通貨危機の影響は短期の経済の落ち込みではなく、日本の支援も中長期の経済発展を支えるためのものである。したがって、この節で取り上げる事業も、ともに現在実施中のものであり、効果や経済への貢献を評価する段階にない。ここでは事業の内容とこれまでの進捗についてのみ取り上げることとする。

6.3.1 メトロマニラ大気改善プログラム・ローン

メトロマニラ大気改善計画は、アジア開発銀行が支援して作成した大気浄化行動計画(車検制度改革、ガソリンの無鉛化、触媒コンバーターの取付け義務化、老朽火力発電所のベースロード発電操業停止等)の実施を支援することを目的としている。この計画に対してアジア開発銀行は3億ドル弱(プログラム・ローン2億ドル、投資ローン7100万ドル、基金2500万ドル)の支援を行っている。

JBICはこの事業を支援するために、アジア開発銀行と協調融資を実施している。ローン開始時に全体金額(363億円)の3分の2を支払い、残りの3分の1はフィリピン側のコンディショナリティの達成を確認し、アジア開発銀行と歩調をあわせて支払いを行うこととなっている。今のところ、8つのコンディショナリティのうち、5つが達成されている。

JBICからのローンの見返り資金は、借款契約では以下の用途に使われることとされている(記載順序は優先順位を示す)。

  • メトロマニラ大気改善セクター計画
  • 円借款事業のフィリピン側負担分
  • その他フィリピン共和国が実施する開発事業

フィリピン政府の大蔵省と予算管理省が協議した結果、見返資金は円借款事業のフィリピン側負担分にあてることとなった。メトロマニラ大気改善セクター計画はアジア開発銀行からの資金で十分実施することができると判断されたためである。

メトロマニラ大気汚染セクター改善計画において事業実施の中心である環境天然資源省は、これまでにアジア開発銀行投資ローンの約10パーセントしか受け取っていない。これまでは主にパイロット・プロジェクトや大気汚染の観測網の整備を行っていた。現在は事業を続けるための資金が不足しているため、アジア開発銀行に対して支払条件の変更を申請している。

6.3.2 LRT1号線増強事業

この事業は1984年にベルギーの援助により整備され、運行を始めたLRT1号線(全長15.4 km)の輸送力を、現行の1時間あたり27,000人(増強事業フェーズ1終了時)から1時間あたり40,000人に、ピーク時の運行1時間あたり24本から1時間あたり32本に増強することを目的に実施されている。具体的には信号・通信システムの改良、駅施設の改良、車庫の改良などを行う。1996年から98年までの間、円借款によって増強事業フェーズ1(新車両の導入など)が実施されていた。

メトロマニラでは現在2号線が日本の円借款により建設中であり(1号線との交差は1ヵ所)、また、3号線が運行を開始している(1号線との交差は現在1ヵ所、将来2ヵ所)。現在のピーク時の利用者数は1時間あたり35,000人であるが、2号線、3号線の整備によって1号線の利用者もさらに増加すると考えられる。

この事業は特別円借款案件として実施されており、本体部分は金利1パーセント、返済期間40年(うち据置期間10年)で、総事業費の85パーセントまで円借款で借りることができる。しかし、主契約者は日本企業(1次下請は2国間タイド、2次下請は一般アンタイド)、円借款部分で購入される資機材・サービスのうち50パーセント以上は日本調達でなければいけない。

事業を実施している軽量鉄道公社(LRTA)の担当者によれば、この事業は日本の支援で実施したフェーズ1事業に引き続くものであるために極めて順調に案件形成が行われ、事業実施に結びついたとのことである。特別円借款に関する情報は国家開発庁と日本大使館から十分に提供された。また、特別円借款の申請から実施までの時間は、要請が随時受け付けられているために、フェーズ1事業よりも迅速に行われたとのことであった。

なお、これから発生が予想される問題は、原産地ルール「円借款により調達される全ての資機材・サービスのうち日本からの調達部分は、全体で50%超」に関することではないかとの指摘を受けた。例えば電車など組立機械の調達を考えた場合、部品は海外のものが使われている可能性があり、日本調達をどのように考えるかを明らかにする必要があるということである。


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